【読書録】飼う人
最近、新聞の記事やTwitterの一コマでお見かけすることがまた増えて、急に気になっていた柳美里さん。
大昔、新聞で「8月の果て」を連載していて、途中まで読んでいたのだけど挫折してしまった。
連載で出ている小説を最後まで読めたのは本当に少なくて、大学時代くらいまでは切り抜いて読んだりもしていたけど、社会人になって新聞から随分と遠ざかってしまった。
それで、柳美里さんの小説も「挫折してしまう」というイメージがなぜかあって手に取る機会を逃していた。
シンプルなタイトル、「飼う人」。
虫やカエルなどを飼う、主人公が登場する。最初に出てくる女性の、淡々とした日常に舞い降りた(?)イモムシから始まって、一番気になったのは震災後に福島(だと思われる)の町に移住した親子の話。
福島の原発事故から数年後に除染作業に入った作業員のとりとめもないやりとりが、生々しく、それを聞いている少年の置かれた環境は切実なものではあるけれど、「飼う」という行為を通して保っている均衡。日常。
私自身は、動物はおろか植物も飼えばまもなく死に至らしめてしまうので、なるべく生き物を育てることから遠い暮らしをしている。
この小説に登場する動物はおそらくウーパールーパー以外は「飼われている」ということすらも認識がない。概念を持ち合わせていないという意味での「ない」ではなく、そこが人の家の中とか森の中とか、そういう意味での「ここ」という場所への認識がないような感じ。
そこがすごくいいなと思った。
「飼う」というと一般的に愛玩動物を指すことが多いように思う。
私もかつてカタツムリを飼っていたことがあったけど、自由に葉の上を這う虫は自由気ままに生きている。
人が急ごうが、悩もうが、病もうがお構いなし。
最初の章と最後の章がつながっているのも面白くて、また柳美里さんの本を読みたいなと思った。