【読書録】オジいサン
京極夏彦といえば、ミステリーというイメージが強くて5センチくらいの分厚い単行本とかもあったのではないか。
あまりの文章量に恐れ慄いて、これまで手が出せずにいた。でも比較的短い。これならあるいは...そう思って手に取った一冊。
定年を迎えた老齢の男性が、自分の認識する自分自身と隣近所からかけられる言葉で気づく自分の姿と、その内省と。
特に一日中、片時も休むことなく(といったら大袈裟だけどそれくらい)うちなる声を発し続けていて、なんとなく今、定年を過ぎて家にいる父の姿も重なったり、将来は私もこうなるのかと思ったり。
オジいサンは孤立してないし、孤独でもない。だけど、一人で誰の支えも受けずに自分の日々と時間と人生を謳歌している。謳歌するほどの何か特別なことがあるわけではないにしても、「1日があっという間、1年があっという間」という何気ない時間の積み重ねを生きているというか。
田中電気の二代目はやけにお人好しで、こまめにオジいサンに絡みに行くのだけど、そのやりとりもなんだか噛み合うような、合わないような。
商店街って私が小さい頃に住んでた街にはあったけど、先日行ってみたら商店街のお店のほとんどはシャッターを下ろし、店を畳んでいた。
でもオジいサンの住む街には電気屋さんが今も健在で、過去と今をつないでいる感じがとてもこの本に良い味わいを出している。
最後の展開は胸が熱くなる感じもあり、この単調な「日常」というコツコツ積み重ねる日々の中にも私たちは物語を紡いでいるんだな、なんてことに気付かされた。