大学に入ってまもなく5月に急遽入院することになった。
最初は産婦人科。隣の人は双子を妊娠していて絶対安静だった。私は「どこも悪くないのに」と入院していることにふさぎ込んでいた。病棟も古くてきれいじゃなくて。姉が何度かお見舞いに来てくれた。裏の通用口から私も出たり入ったりして、勝手に離院していた。
一瞬、退院したけど次の外来受診で再び入院。次は消化器内科。
またまた「どこも悪くないのに」と思う反面、先生からは「このままだと死ぬよ」と言われた。血液検査の結果はべらぼうに悪くて毎日血糖測定と血液検査があって、IVHも入ってた。
あの頃の自分は本当にひどく容姿が変わっていて今見返してもなかなか怖い。
それでも一つの思いにとらわれていて、いわゆる病識も持てなくて離院ばかりしていて、悪い患者だった。
大学病院だったのに長く入院させてもらっていたのは、今ほど診療報酬が厳しい時代じゃないからかも。
今思えば手帳も取れたはずなのにそんな知識はまったくなかった。
退院した後も長く通院をしていた。
消化器と精神科と。
あれからもう20年とかの月日がたっている。ずいぶん昔の話。
あの頃、病棟から見た景色や病室から見えた景色はよく覚えているし、入院中の日々も思い出せばまざまざと記憶が蘇るけど、普段はすっかり忘れている。
そのときに主治医をしてくれた先生は私と同じ大学ということで、大学の話も軽くしてくれた。私は文学部。先生は医学部。同じ大学って言ったって天と地じゃないか。
そう思ったけど、先生は「同じ大学だね」って言ってくれたのを妙に覚えている。
その先生が今やその大学の診療部長になっていた。
ベッドサイドにしゃがんで話してくれた様子とか、優しい感じとか、ずっと覚えている。
診療部長に先生の名前を見つけて急にそのことを思い出した。
もうその病院にかかることもないし、すっかり私は元気になって今では病院で働く身になっている。
そんなことあの頃の私は思いもしなかった。
入院した日々は今の私の仕事になんのつながりもなく、なんの関係もない。
だけど私の人生の中でいろんなことが過る、その大事な過去の一部であることは間違いない。ちょっと大変だったしできればもう二度と経験したくないけれど。