【読書録】夏の裁断
島本理生さんの本は初めて読んだ。
よく名前は見かけていたものの、どういう小説を書いているのか皆目見当がつかず、触れないままだった。
不意に「読んでみよう」とこのタイトルに惹かれて読んだ。
すごく寒くて冬の寒さが嫌だなと思って、夏がタイトルに入っているから温かい気持ちになれるかしらという理由で読み始めた。
最初はなかなか慣れなかった。
優柔不断というか、はっきりものを言わない主人公の女性作家の心情を把握しきれず、なんとなく掴み所のない印象で読み進めた。
個人的には、私が本を解体することを「裁断」というのを知らなくて出版社で働いていたくせに...知らないことがいっぱいだなと思ったり。
しばらく主人公の心情がわからないなと思っていたし、今もちょっとよくわからないままのところもある。
何人かの男性が登場するのだけど、そんなに男女って簡単に肉体関係になるのか??そんな世界もあるのか??ということ。
まあ、小説の中の話。それに実社会でもそういう人たちもいるのかもしれない。
だけど、この小説の後半にかけてものすごく良くて、言葉の重みとか柔らかな強さとかをしみじみと感じて一言一言を大事に読んでいた。
中でも気に入ったフレーズがある。
誰にも自分を明け渡さないこと。選別されたり否定される感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない。自分にとって本当に心地よいものだけを掴むこと」
このセリフが心にズシリと刺さった。ふと、元夫ととの生活も思い出したりして、私は自分で選べてよかったんだと気付かされた。
この後、主人公の女性がとある男性と出会って、名前のない関係に心を痛めながらも、なんだかわからない、明日には消えてしまう関係に不安を抱きながらも、それを愛しく大切にする気持ちがとても美しくて、共感していた。
読み終わった後も、もっと読みたい気持ちになった。